シアター! (メディアワークス文庫) 感想

 さて、本も戻ってきたことですので、予告どおり標題作の感想など。


◎ アートマネジメントの基礎がわかる本

 小劇団「シアターフラッグ」は解散の危機が迫っていた。お金がないのだ。その負債額なんと300万円!
 主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。若手プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新生「シアターフラッグ」の運命やいかに。

 ストーリーは、春川司が、資金繰りがいい加減な劇団の経営を見直すとともに、ストロングポイントを的確に見つけ出してそれなりの収支をたたき出し、劇団員に自信を植え付けるという、兼業ながら上のあらすじからは想像できない献身的な努力をしたという物語です。
 ん?巧や千歳や劇団員はどうしたって?…いや、私にはそう読めたのですよ、この本は。

 確かに、露骨に牧子に好意を示す石丸やら、巧に好意を示す牧子やら、何となく司が気になる千歳やら、その千歳が気になる巧やらの恋模様がベースにあるのはわかりますが、普段その辺のところが結構露骨に書いてあるラブコメを読み慣れた目には、単なる背景にしか感じられなかったのです。
 まあ、そのあたりの「甘さ控えめ」なところは大人のライトノベルと言ったところでしょうか。

 それより私が興味を引かれたのは、甘チャンな劇団員を向こうに張った司が行った改革の部分です。
 この話、元プレイヤー側であり現在マネジメント側にいる私個人がとても身につまされる話だったのです。なので、劇団員側の気持ちも司の気持ちもよくわかります。

 司の行った改革。それは、大きく分けると4つ。

① プロとして収支を考えた公演準備をすること。
② 劇団のストロングポイントを強調し、そこに資源を集中して宣伝→販売につなげること。
③ 出来るだけ安価かつ効果的な宣伝…要するにマスコミや口コミを上手く使うこと。
④ お客様の購入意欲を高め、かつ利益率が高いグッズの製作。


 これはプレイヤー側やお客さん側から見ると少々こすっからい考え方…まさに鉄血やら守銭奴などと思われる人もいるでしょうが、そうでもしないと芸術で「儲ける」ことはできないのです。

 しかし、これはプレイヤー側にとってはとてもやりにくいことです。
 プレイヤー側は、自分たちの公演の芸術性を高めるために、あるいは自分たちの満足のためにいろいろな要求をしたがるものです。それも採算度外視で。これまでのシアターフラッグはまさにそれだったのでしょう。しかし、視点を変えると、それらはお客様のニーズとは別物…どちらかというと「自己満足」で終わってしまい、全体の収支を悪化させるだけなのです。

 アマチュアならば好きなことが出来ればそれで良いのでしょうが、あくまでもプロ集団を目指すのであれば、公演は「商品」であり、ある程度お客様への「媚び」は必要なのです。
 芸術性が高いから、完成度が高いからお客様が入る、あるいはお客様が入るから良いものだ…というのはよくある「錯覚」で、そのほとんどがマネジメントの勝利であると考えるのが妥当だと思います。

 話は変わりますが、この本には、司の独白という形で、作者のちょっとした主張が書かれています。

どんなジャンルであっても、客層を広げる可能性を持っているのは玄人好みの商品ではない。素人がカジュアルに楽しめる商品だ。カジュアルな商品こそそのジャンルの間口であって、それを軽んじる業界は廃れる。新規の客を弾くからだ。


プロパーに評価される商品が悪いというわけではない。それは業界で確かに必要なものだろう。しかし、それとは別に新しい客を連れてくる商品を冷遇するような業界は、決して社会のメインストリームにはなれない。分かりやすいものを軽視する風潮には、商業的に成立するために不可欠な一般客への侮蔑がある。


 これは、一応演劇界の話として書かれているようですが、本の世界でも同じことが言えるのではないでしょうか。さすが未だに「ラノベ作家」の看板を外さない作者。ラノベ業界への思いが溢れていますね…というのは言い過ぎか?

 本作で気になった点は、所々視点がぼやけていると言いますか、人称が急に切り替わってしまい、戸惑ってしまうことがありました。私自身有川作品はこれで2冊目ですが、いつもこんな感じなのでしょうか。

 さて、この本の評価ですが、有川作品というブランド力、悪い言い方をすれば「色眼鏡」を外して見た時、その評価は分かれると思います。一般的なライトノベルからみると、人間ドラマが今ひとつ中途半端に終わったことが食い足りないところですが、上に書いたようにアートマネジメントの実例を描いたところは個人的に面白かったです。ここのところ続けて感想を書いている新人の作品ならば★5つ付けるところですが、有名どころの作品なので辛めの★4つとします。


シアター! (メディアワークス文庫)
アスキー・メディアワークス
有川 浩

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